2013年11月6日水曜日

レストア道場、ここまでの1年(その2)

 無事ブレーキのオーバーホールを達成したお笑いレストア道場。師範が次なるメニューに定めたのが、ナローポルシェのキャブレターオーバーホール作業でした。アキノリさん、日岐の両練習生にとって、キャブOHはもちろん未体験ゾーン。2013年4月、石田ショーキチ師範に講義を受けながら、キャブの世界に足を踏み入れたのでした。

バラして、洗って、組み立てて!
 キャブレターの整備と聞くだけで、その得体の知れなさについつい尻込みしてしまうお笑いレストア道場練習生(特に日岐)でしたが、その行程はと言えば


1:分解と洗浄・清浄
2:ガスケット/パッキン/ビス類を新調し組み立て

 と、機械モノのOHとしてはとってもシンプルなアプローチ。機械いじりの入門にも最適ではありませんか。しかし、相手は40年モノのナローポルシェにくっついてた40年モノのキャブ。しかも長期にわたりほったらかされ、いつ整備されたのかもわからない代物。オーバーホールも一筋縄にはいきません。というわけで、早速お笑いレストア道場キャブOHの模様を振り返ってみます。

2013412日~キャブOH初日~
2013年4月12日、キャブレターのOH作業に着手。装着されているのは、2基のWEBER 40 IDA 3Cです。


午前10時、作業開始。石田師範の指導のもとエンジンからキャブレターを取り外す作業を行なうアキノリさん(奥)と日岐。

右バンク側のキャブ取外しの最中、ひどく固着したナットの取外しを引き受けた石田師範。見事ナットをまわしキャブの取外しに成功するものの、同時にワッシャを4番のインテークに落下させてしまうハプニング。
一同騒然。201311月現在、いまだこのワッシャは未救出。この事件もあり、エンジン下ろしが決定したのでした。

1530分頃、無事キャブの取外しが完了。キャブ本体のまるで古代遺跡の如き佇まいに、積年の日々を感じずにはおれません。
「たぶんこのキャブ、バラされるの初めてなんだろうなぁ」と師範。まずはこれを分解し、各部洗浄を実施します。

石田師範「さ、全部バラしましょう」。ボディ外側にあるメインジェット(ホルダー)やアイドルアジャストスクリュー、スロットルアジャスト、ドレンなどをどんどん外していきます。メインジェットは135番が入っていました。「僕この135番というジェットが一番好みなんですよ」と師範。

バラしながら、師範の解説が入ります。
「このスクリューの奥にはプログレッションホールっていうのがあるんですけど、これがウェーバーのダウンドラフトキャブの非常に特徴的な仕組みなんです。スロットルバルブが開いている時はメインジェットの独擅場、一方閉じているときはアイドルジェットの機能の独擅場で、その間っていうのが結構難しいんですね。このプログレッションホールというのは、アイドルジェットとメインジェット、それぞれの役割が切り替わる低回転域から常用域への橋渡しのスポットで、空気の流速を上手く早めてあげる機能を担っているんです。おかげで低回転からのつながりをスムースにしてくるんですよ」

ベタ褒めかと思ったそのその直後、「それにしても汚ねぇな、このキャブ!!」と一喝。ツンデレならぬデレツンな石田師範。

真鍮ネジはやわらかく、ネジ頭を舐めてしまったり、ネジ本体の中折れ破損のリスクが高いため、アキノリさんと日岐はもちろん、師範も慎重に作業を続けます。

左からアイドリングジェットとホルダー、ミクスチャースクリュー、メインジェットとホルダー。ちなみにアイドルジェットは45、メインジェットは前述の通り135、エマルジョンチューブはF3が入っていました。

続いてアッパーカバーの取外しにかかります。ここでもネジの破損には細心の注意をはらいます。

アッパーが外れると、燃料がたまるフロート室が見えてきました。金色の物体がフロート(浮き)です。フロートにはベロが付いていて、フロートの上下動に応じて角度を変えるこのベロが、燃料の出入りをコントロールするスイッチ(ニードルバルブ)の頭を叩くことで出入り口の開閉が調整され、ガソリンのフロート室への流入量が一定に保たれるという仕組みなのだと、師範が教えてくれました。
「このフロートがないと、ガソリン出ほうだいで燃焼室じゃばじゃばのオーバーフローになっちゃうというわけです」

それを聞いたアキノリさん、師範に質問タイム。
「素朴な疑問なんですけど、フロートがあっても電磁ポンプで燃料は送られ続けてくるわけですよね。送られ続けているガソリンっていうのは、どうなるんですか? 圧がかかってきたらポンプが送るのをやめる……んですか?」
石田師範すかさず「アキノリさん! いい質問です!!!」

「だから、キャブレター用の燃料ポンプに圧の高過ぎるもの使っちゃダメなんですよ。キャブレター用ポンプというのは、0.3kg/平方センチメートルって決まっているんです。それを破って、インジェクション用の圧の高いポンプを使ってしまうと、どんどんガソリンが送られてきてしまうんで、オーバーフローしちゃうんです。それに、圧の高いガソリンを送り続けていると、逃げ場のない圧力がまたポンブ側にかえってきちゃうということもあり、ポンプも早く壊れてしまったりするんですよね」(石田師範)
「なるほど! 勉強になりました!」(アキノリさん)
「僕、ポンプの使い方で凄いオススメがあるんですけど、これはまた後で話しますね」(石)

分解を終えたところで、燃料の流路を高圧エアで吹き流し、目詰まりの原因になるカスなどを飛ばします。ガソリンや空気、そしてその混合気の通り道であるキャブの基本性能を取り戻すためには、この清掃作業が非常に大切ということが良くわかりました。(ここで日暮れとなり、続きは持ち越し)


2013521日~キャブOH2日目~

2013521日。この日の作業は14時頃からスタート。今回は清掃と磨きがメイン。キャブ本体の汚れを一気に落とすべく、メタルクリーンというケミカルの水溶液に3時間ほど漬け込みました。

メタルクリーン溶液では変色などの可能性がある真鍮や銅製のボルトナットは、電動ツールに取り付けたカップブラシを使って磨きました。

電動ツール使用による作業効率のアップに、俄然アガる石田師範

すっかりきれいになりました! この日の作業はここまで。


2013617日~キャブOH3日目~

2013617日。午前10時に作業開始。この日はスロットルバタフライ両端のシリコンブッシュを交換する作業がメイン。石田師範曰く「摩耗したブッシュ部分にかかった負圧のせいで余分なエアを吸い込みやすくなってしまうんです」とのこと。このブッシュを交換するためにはスロットルバタフライのシャフトを取り外さなければならないわけです。「今日はコレで半日かな」と師範。結構大変な作業です。

「じゃんじゃじゃーん。皆さんどうぞ麦茶飲んで下さい。まだ出てないかもしれないけど」(石田師範)
「あ! ありがとうございます! なんかのオイルかと思いました」(アキノリさん)
一同爆笑!

シャフトを抜き取るために両端のリンケージを外し、バタフライを取外しにかかります。しかし、このバタフライを固定するマイナスネジが曲者。かなり固着しており、しかもネジ頭もナメてしまいそうな感触。嫌な予感は的中し、アキノリさんの作業中に一本折れてしまいました。


40年もさわってないキャブなんで、こういこともありますよ。これくらいなんとかしますんで大丈夫です」と師範。残ったネジはドリルで割って抜き出す作戦。ちなみにこのネジ、ステンレス用のドリル刃でないと割れない固いネジでした。

というわけで折れたボルトも無事救出。エキストラクターでネジ山を整え、ホームセンターで買ってきた新しいネジに入れ替えました。

シャフトをずらし、無事目的のシリコンブッシュを取り出す事に成功。

左が古いシリコンブッシュ。右は新品。厚さを測ってみたところ、新品は0.45mmに対し使い古した方は0.25mm。およそ0.2mmの摩耗が認められました。

両端のブッシュ交換ついでに、シャフト回転部分の接触面にシリコングリスを塗りこんでおきました。このあと、バタフライを元の位置に取付け(バタフライ固定ネジはボルト用接着剤で固定)、17時頃にはシリコンブッシュの入れ替えが無事完了しました。この日の作業はここで終了です。


2013621日~キャブOH4日目~

作業4日目、この日はオーバーホールキットを組み込みキャブの完成を目指します。午前9時30分に作業を開始。まずは加速ポンプのガスケットを入れ替え……

バタフライシャフトと加速ポンプを繋ぐタイロッドの長さを左右で合わせます。

タイロッド位置をナットで調整途中、タイロッドが折れるトラブルが発生しました。「この部分はずっとテンションがかかっていたわけだから、金属疲労がたまって特に破損しやすい状態だったのかもしれないね」と師範。

4個のフロートのベロの位置をチェック。バラバラでした。

フロートタブのベロが本体のヘッド面から見下ろして18mmの位置にある時、フロートのアタマがへッド面上方12.513mmに位置するように調整します。日岐はここでどハマりし小一時間を消費。

ホルダーやスクリューを本体に取り付けてゆきます。

洗浄したインナーベンチュリー、アウターベンチュリー(もともと装着されていたφ36から、低回転でも空気の流速を稼ぎ安定して混合気を燃焼室へ送り込めるφ32へ変更)、エマルジョンチューブなどを戻し入れ、真新しいガスケットとともにアッパーカバーを組みます。
「ガスケットは平均的につぶすように、周囲のボルトを少しずつ、少しずつ締めていくようにしてください。クルマに取り付けたあとも、しばらく時間を置いて何度か締め込んでしっかり圧着させる必要があるんですよ」と師範

18時前、ついにキャブのオーバーホールが完了しました! 作業に取りかかってから約2ヶ月強、感動の美しさとなりました。エンジンがかかり実際に走行する際、今度はこのキャブレターのセッティングというテーマが待ち受けています。今から楽しみであります!

 以上、ナローポルシェのキャブレターOHでした! 長い道のりでしたが、機械ってオモロイ! をバッチリ体感することができたウェーバーキャブの整備となりました。さて次回はエキマニ補修編です。どうぞお楽しみに。